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家出少女 cross2

第2話:捨てた男

夜半過ぎまで会社にいた。

仕事の〆切りに追われ、ひたすらブラックコーヒーを煽っている。
今日こそは、ナニがなんでも彼女とデートしなければならない、という甘い強迫観念に捕われていた。

随分と会っていないから、きっと溜まってるにちがいない。
なにしろ僕がそうなんだから。

楽しみだな

そう考えるとパタパタとキーを打つリズムが心地よくなってくる。


男が事務なんてやってるから、合コンでは随分と珍しがられて結構イイんだけど。
職場でもやはり事務は女が多い。チヤホヤされるのも悪くなかった。

合コンでは「マジメなヤツだから」と紹介されるのが定番。
女はミタメによらずマジメな男にヨワいから。

来る者を拒まず、去る者を追わない。
それでよかった。

執着なんてゴミだ。

そう思って今迄バカみたいにマジメに仕事してきたんだ。

人間いつかはそんな生活にヒビが入る。
いつの間にか趣味も嗜好もなくなってしまっていた。

ところが仕事先で知り合った人間から「ギターやらないか」と誘われ、これも付き合いの一つだ、と軽い気持ちでバンド結成を引き受けたら、意外にもそれが僕の乾いた生活を潤してくれた。

バンドを始めて2ヶ月ほど経った時、ある女に出会った。女は可愛く笑う。
くるくるとよく笑う。

僕はその笑顔がたまらなく愛おしく感じる。

その女とセックスに至る迄、時間はかからなかった。
会社帰りにバッタリと駅で会い、一杯飲んで行こうかという話になって、その後、酒もそこそこにホテルに入っていく。

彼女との関係は、そんな風に、実にスムーズに始まった。


「さあて」
そろそろ仕事も片付き始めた。
ケータイを取り出してメールを打ち始める。

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今からだと遅いけど
どうする?
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彼女との、軽いやり取りのあと、会うことになった。


その日の勃ち具合は最高のテンションで、何の滞りもなく気持ち良くなれた。

温かい体に高ぶった唇が触れる。
「ぅんっ…」
胸元に触れた時に淡く吐息を洩らした。

「ナニ?…感じる?」

僕は少し笑って意地悪く聞いた。
コクリとうなづく照れくさそうな表情がいやらしい。

薄目なんか開けちゃって。
腰を浮かせて気持ちいいんだな。

短かめのスカートから細長く伸びる脚が好きだ。
シルバーラメのミュールがよく似合ってる。

春はパンプス、夏はミュール。女らしい脚ってのはこうこなくちゃいけない。
太股の上にいけばいくほど肉が柔らかくて触り心地がいい。

僕は丁寧に彼女の腿を撫でる。爪先で内側をなぞると彼女の体がビクビクと震えた。

ほらほら、感じてる。

「今日はなんか可愛いね。ガマンできないからさ、挿れさせて」
「うふぅ…ん」

ナニそれ。返事かな?ソソるな。イチイチ可愛い。

僕は首に手を回して彼女を抱き締めるようにしながら挿れる。
にゅるにゅると彼女は僕を受け入れていく。たまらない。この吸い込まれるような感覚が。

彼女と連絡が取れない日が続いた。

僕は無性に恐くなって、何度か電話をかける。本当は出るまでかけたかったけど、あまりしつこいと、ストーカーかと思われてなんだかそうなりそうな自分が恐いのでやめた。

彼女のことを考えながらも、日々の生活に追われていた頃、彼女から電話があった。

2週間経ち、ようやくかかってきた彼女からの電話の声は疲れていた。力ないわけではないが、固めた意思に基づく深く思慮に満ちた声?

電話の内容はこうだ。

「好きな男ができたから、別かれてほしいの」

信じられなかった。もちろん僕の答えはノーだ。

「そんなことできないよ。無理だもん。好きなんだから」

僕は彼女の申し出を頑に断ってぶっきらぼうに電話を切った。

ナニ考えてんだ、いきなり連絡が途絶えたと思ったら、好きな男ができただって?
僕は彼女だったら幸せになれると確信していたから、浮かれていた自分が急にミジメになって涙が出そうになった。

ミジメな気持ちが怒りに変わるには時間はかからない。
腹が立った僕はマナミを呼出した。

飛んできたマナミはセックスフレンドだった。
マナミは呼び出すにはちょうどいい、都合のイイ女だ。何年か前に知り合った。
年上で、気前もよく口も堅い。少し前までは嫉妬深い女だったが、最近ようやく吹っ切れたようだ。

近くの安いホテルに入った。
光ファイバーで作られたホコリだらけの木のモチーフが、なお一層安っぽさを引き立てる。

「しょうがないよ、俺、モテるから」

いつもマナミに言って聞かせる言葉だった。せめてもの「やさしさ」に、いつもマナミに突き放して放つ言葉だった。

俺に関わるな。
俺はお前のことを一生懸命考えるなんてできない。
俺はカラッポだから、入ってくるんじゃない。
と。
なのに俺はマナミとのセックスの間に、自分をどれだけマナミに注ぎ込んだかわからない。

「マナミ、聞けよ。あの女さ、ほんとムカつくんだ」
「へえ、そうなんだ」

「なんだ、気のない返事だな」
「だって、そんなこと言ったってさ、どうせ戻っていくんでショ」
「そんなこたーねえよ、今日で最後にするかなって、ちょっとぐらいは思ってる」

ほんとか?俺。

俺はマナミと腰を繋げながらとめどなく話した。
マナミはいつも俺の話を聞き、いつも最後にこういう。

「わたし、アンタのこと受け止めてあげるよ」

眼から涙がこぼれた。
信じられなかった。自分には流す涙があったのか。悲しいのか、嬉しいのか、安心なのか不安なのか。涙の所在がわからない。
「なんだそれ」といって笑って終わるはずのマナミの真剣な言葉が、今日の俺にはひどくやさしく、心に響いた。

俺はオウオウと唸りながらマナミの腰に打ち付ける。
マナミから潮が噴き出した。
けして小さくないマナミの胸が上下に揺れ、顔も声も、流れる水音も、こんな場末の安ホテル、湿った暖かさがいやらしさを包んでくれた。

「俺のことを底から分かってくれるのは、きっとお前だけだな」

俺はそうやって、一瞬でも受け止めてくれたマナミに感謝の気持ちを述べてセックスを終わった。
いつもの、ただの行為なら、きっとそんなことは言わない。
この日は特別だった。


しかし、ホテルを出る頃、俺にはマナミへの気持ちはなかった。
そんな二人が一緒にいたって、きっと破滅的な関係にしかならない。
虚しさが漂う。梅雨の切れ間の乾いた空気の中、ただなんとなくマナミの手を握って車道を眺めていた。

赤信号の横断歩道。
向い側に見慣れた女が立っていた。
彼女だった。信じられなかった。

「彼女だ」

短くつぶやくと、俺の手を握るマナミの手に力がこもった。
俺はその手を振りほどく。

「テツ…っ」
「ごめん!俺やっぱもうちょっと頑張るわ!」

マナミの手は借りるまい。
これからは自分の手で彼女をつないでいくことにした。
セックスフレンドで心は癒せなかった。

彼女の手を放すなんて考えられない。
いましがた自分の全てを曝け出して、体を一つにしたこの女を捨ててでも、彼女との人生を送って生きたい。

男なんて勝手なイキモノだ。
そんなこと、女だったら知っておけ。

それでも俺がいいんなら、その時は拒みはしない。
いつでも挿れてやる。



(cross 了)

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