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家出少女 其レモ恋ト言ウ1

第1話:中華街ドリーム 前編

「…あ、あぁぁっ…あ、んん!は、あ、ああんっ!いいっ!いいよぉっ!」
「…は、ぁ、ん、ん…ッは、は」

ホテルの一室で、男と女が睦み合う。
ベッドで仰向けに寝そべった男の上に女が乗っている。夢中で腰を振って、まるで犯しているかのように。
言葉もなく、ただ、性欲の趣くまま、抱き合っている。インサートはこれで二回目。混ざり合った淫猥な匂いが充満する密室に響くのはぬちぬちとした水音と、荒い吐息。
硬度を取り戻した男根が赤く熟れた秘肉を抉る。
愛液と精液が混ざり合って、嗅覚を刺激した。

「ああっ!もっとよ、もっと、ちょうだい!」

灯りを全部消して、カーテンを全開にして、煌びやかな街のネオンだけがふたりの姿を映し出していた。

      ☆

「きゃー!美味しそぉ!いただきまぁす!」

木製テーブルの上に、次々と置かれていく点心のセイロ。
制限時間ナシの食べ放題コースを選んだのは、細川奈那子(ほそかわななこ)だった。
真っ黒のストレートな髪を無造作に肩口で結わえ、スッピンの顔は運ばれてくる点心にキラキラと輝いている。
残暑キツイこの時期に、ろくすっぽ化粧もしないで歩けるほど整った顔立ちは色気より食い気優先。
歩き回るのを設定してチョイスしたTシャツとジーンズがますます色気を削いでいる。
連れも似たような格好だから、別段違和感はない。
175cmの身長と適当についた筋肉が非常にバランスが良く、秀でた容姿ではないが人の良さそうな顔立ちの飛田安彦(とびたやすひこ)が微苦笑していた。

「ん~っ!このシュウマイ!肉汁つか旨味?すんごい美味しいっ!」
「…ナナコ、大丈夫?」

飛田はキンキンに冷えたビールを持ったまま呆れたように問いかけ、

「え?何が?」

奈那子は、別のセイロの海老蒸し餃子をパクつきながら答えた。

「そんないっぺんに沢山たのんで、食えるのかってことだよ」

オーダーしてから作られる料理はどれも熱々で、とても美味だ。
ただ、点心の種類によっては20分近くかかる。
注文したのを忘れて満腹になって、残す。そんな失礼極まりない失態は絶対避けたい飛田だった。

食べたい量を、食べれるだけ。ソレがポリシー。

もぐもぐと餃子を咀嚼しながら一瞥して、満面の微笑みを浮かべ、ごくんと飲み込んで奈那子は言った。

「ほらほら、早く食べないと折角の出来たてが冷めちゃうよ~。だあいじょうぶ残さないから」

…そうでした。

ふいに、余計なお世話という言葉が飛田のアタマを過ぎる。
そのみてくれに、つい、忘れてしまうがよく食うのだ奈那子は。
160近いくせに、体重は50キロない。細い身体の何処に栄養が回るのか。

「…ちょっと安彦さん?今さ、食うわりには胸に栄養回らんなァとか思わなかった?」

眉間にシワを寄せて、奈那子が云った。

「…!」

図星を指された飛田はバツが悪そうに、小龍包に箸を伸ばし、噛み付いた途端。

「あちっ!」

慌ててビールで口の中を冷やす姿に、奈那子は声を上げて笑った。

   
    
 
奈那子と、飛田――。
付き合い始めて、きっかり2年。知り合ったのは奈那子がアルバイトしていた画材店だった。
専門学校の学費を捻出するために週6日、夕方から3時間のシフトを選んだ。
遅番で時給が良かったし駅ビル内の店舗だから物凄く楽だったのだ。
ビル5Fはファッション中心の区画で、その隅っこにちんまりとある画材店は本当に狭かったけれど。
大好きな画材に囲まれ毎日が愉しかった。だから自然と顔に笑みが浮かぶ。
そんな奈那子の接客態度はとても好評で、実際彼女目当の来客も多かった。
流石に個人的な交際の類は全て断ってはいたが、実は、密かに気になっていた男性がいて。

(ああ、今日は水彩絵の具を見てるんだ…)

水彩画を描いているらしい彼は、頻繁に絵の具を購入しに来ている。
真剣に棚を物色している顔が、何だかとっても好感が持てた。

(名前は…トビタさん、だっけ)

書いた領収書の宛名が、確かそう。
レジを担当していた奈那子が、彼を意識し出したのは本当に些細なことがキッカケだった。
彼が買ったものは絵の具2種とA4のスケッチブック。カウンターにお札を差し出した手に――視線が釘付けになった。指が、とても長くて好みだったからだ。
無意識のうちに、奈那子は飛田の手を掴んでいた。握るのではなく、掴む。

「…えぇと、あの?」

そうして、戸惑ったような飛田の声で現実に引き戻されたとき、奈那子は自分のしたことに驚いた。

「…あ、失礼しました!」

慌てて離した飛田の手が少し湿っていたのは緊張していたからだと、後で知った。彼もまた、奈那子を意識していたのだ――。

テーブルに備え付けてあるメニューを見ながら、奈那子は少し温くなったウーロン茶で口の中をリセットした。
折角連れてきて貰った中華街だ。好きな男と一緒だから、楽しくないわけがない。
だからテンションがあがるし、嬉しくて頬が緩むし、食も進む。

「この春巻きで全部かしら、注文したのって?」
「うん、結構な種類食べたんじゃないか?しっかし、よく入ったなぁ」

笑いながら、飛田が感心したように言った。

(…、良いなぁ)

注文した分の点心を食べながら、目の前に座って談話しつつ楽しく食事をしている彼に見惚れていた。
落ち着いた声とか、何の屈託もない笑顔とか、勿論穏やかな性格も好ましい。
――でも、一番好きなのは手だと、奈那子は思っていた。
そんな女の心情も知らずに飛田は、ひとつひとつ、丁寧に口に点心を運んでいく。タレが口角についたのだろうか。親指で拭う仕草に、どきんとした。
思わず箸をとめて、

(うわ…エロい…)

正面に座る男の手が、指が、自分のものだと、実感する瞬間。ソレがこのあと確実に訪れる。
こくんと咽喉がなったのは食欲でなく、多分、性欲なのだろう。
セイロにひとつ残った春巻きを器用に割ると、片方を飛田の皿にのせた。
そして、もう片方を箸で摘みあげて、

「ね、安彦さん。コレ食べたらいっぱいエッチしようね」

奈那子はそう言ってにっこりと笑い、飛田はテレながら、頷いた。

(其レモ恋ト言ウ 第1話おわり/第2話につづく)

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