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家出少女 其レモ恋ト言ウ3

第3話:危ナイキモチ

正午前のティールーム。
ぼちぼち混雑し始めてきた。
駅ビル4Fからの眺めは人と自動車(クルマ)と高層ビルばかり。
しかし、夜はなかなかのもので。
細川奈那子(ほそかわななこ)は、ここからの夜景がとても好きだった。

「指輪貰ったんだ?やったじゃん、おめでと~」

奈那子の左手を見つつ、向かい側に座ったふたつ下の従姉妹、恵川美奈子(えがわみなこ)がひやかし半分羨ましそうに言った。
幼い頃から姉妹同然に育ったから、一番さきに彼女へ伝えたかったのだ、が。

「…ウン、ありがと、美奈ちゃん」

そう言って、奈那子は小さく笑った。
実のところ、少しだけ後ろめたい思いもしていた。
薬指に納まっている可愛いリング。それを見るたびに、甦る記憶。内心、溜息をついた。

(…なんで、あんなことしちゃったのかなぁ)

確かに、あの夜は本当に嬉しかった。
本気で飛田と添い遂げようと思っていた。いや、今だってそう思っては、いたんだ、でも。

――あの、手。

正体不明の、男の――長い指。
脳裏に焼きついて、離れない――手だった。
偶然とはいえ結果的には、他人(ひと)の情事―なんだろうか―を覗き見して派手に欲情してしまい…いや、違う。情事ではなく「手」に、だ。
そこから、奈那子はおかしくなった。
身体の奥が疼いて、どうしようもなくて。
ホテルの一室に入るなり自分から男のモノにむしゃぶりついて、強請(ねだ)って――セックスをした。一回じゃ終わらなくて、二回もシた、ゴムなしで。

(あんなことしたの、初めてだった…)

全て自分が勝手にサカってヤっただけだったという事実に、奈那子自身が一番驚愕していたのだ。
翌朝、飛田の視線がたまらなく恥ずかしくて、恥ずかしくて!
そんな乙女の心情もしらずに飛田は、

『…きみがあんなに大胆だったなんて、全然知らなかったよ』

などと嬉しそうに言うから、ますますいたたまれない気分になった。

(触発された、なんて言えないよなぁ…)
「――ねぇ?ナコちゃん?どうしたの?」
「え?ああ、ごめん。ぼーっとしてた」
「幸せ過ぎて、惚(ぼ)けちゃった?」

ニヤニヤ意地悪く笑いながら、茶色く染めた短めな髪をゆらして美奈子が言った。

「失礼な…惚けてなんてないわよ。ちょっと考え事してただけよ」
「あれ~?幸せ最高潮!みたいな顔してるかと思ったら、あんま、そうでもない?」
「ちょっとね…いろいろあるの。そっちこそどうなのよ、少しは意中のカレと何か進展した?」
「う…っ、鋭いトコきたね奈那子さん」
「前に電話で『バイト先に好みのタイプがいる』とか言ってたでしょ?私に何か報告はないの?」
「…なに矛先こっちに向けてんだか」

おどけたように、美奈子が言った。

「ナコちゃんさぁ?お互いに好きって思って付き合ってるんだよね?」
「えっ…、そりゃそうよ?イヤなとこも、駄目なとこも、全部ひっくるめて大好きだもの。プロポーズされて嬉しいわよ」

グラスについた水滴がすーっと落ちた。ストローを咥えてアイスコーヒーを喉に流し込む。
この言葉は、美奈子ではなく自分に向けたものだ。
だって、決めた。
彼を選んだ。
気持ちがぐらついているのは、あの場面があまりにも鮮明だったからだ。
ただ、それだけ。
分かっているのだ、そんなこと。

「そうだよね、好きなら良いとこも悪いとこも全部ひっくるめて、だよね。だったら大丈夫なんじゃない?そんな心配しなくても…何心配してるのか知らないけどさ」
「…美奈子」
「大体、ナコちゃんは心配性なんだよ。大方結婚したら仕事どうしようとか、お姑さんと仲良く出来るかとか、そんな悩みでしょ?だぁいじょうぶ!なんとかなるって!」

的外れな励ましの言葉でも、嬉しい。
その気遣いが物凄く、嬉しい。
優しくて可愛い、大好きな従姉妹。
知らず、表情(かお)に笑みが浮かんだ。

(そうよね、私が好きなのは安彦さんだもの。ソコは変わらないわ)
「ありがと、美奈ちゃん」

にかっと、美奈子が笑って、

「あたしの方がよっぽど深刻なんだからね~。なんせ、好きなヒトがモテモテくんだから」
「なにソレ。変な励まし方しないでよ」

困ったように、奈那子が苦笑した。

「ホントなんだってば。なーんか下半身がルーズっていうか、来るもの拒まず去る者追わずってヒトなんで。えーと、ヤリチンつーの?」
「ヤリチンって…下半身がルーズって、そりゃあ駄目なんじゃないの?」

思わず顔をしかめてしまった奈那子をみて、美奈子は苦笑した。

「…やっぱ、そう思うよねぇ」
「思うわよ」
「それでもね、あたしはあのヒトが良いんだもん」

というと、美奈子はすっかりアイスが混ざってしまったクリームソーダをストローで啜りあげる。
誰かに恋をして、友愛とは別の愛情を覚えるというのは、傷ついても、けして無駄にはならない。それを栄養にして、また次の恋に進むのだ。
だが美奈子の場合、ヘタをしたらトラウマになりかねない。むっつりと黙り込んだ奈那子を見て、従姉妹はクスクスと笑った。

(…よりによって、なんでそんなの選ぶかなぁ)
「確かに色々問題があるヒトなんだけどね、優しいの凄く。気配りもちゃんと出来て、ああ、コレは後で分かったんだけど、同じ学校だったの。科は違うんだけど。でもね、バイト先が一緒じゃなかったらきっと、出会ってなかったよ」
「バイト先が一緒…」

ふいに、飛田の顔が浮かんだ。彼は、画材店の客として奈那子の前に現れて、そして好きになった――。
美奈子もまた、書店で、同僚としてそのヒトと出逢い、一方的に、恋をしている。

「本当にモテるのよ。バイト仲間は勿論、お客にもファンが多くって…でも男にも寧ろ好かれてて。男女の区別がないとこが魅力なのかなァ。それにねぇ」

顔も格好いいよ、と付け足した美奈子の笑顔は、今まで見たことがないくらいに綺麗で、奈那子は、言葉を失った。
人を見かけで判断しない従姉妹がそう言って笑う。
どんな性癖で、どんなに女癖悪くても、本質を知っているからこそ、言えるのだろう。
美奈子の話す声が、少し遠くで聞える。まるで、耳に膜がかかったようだと、奈那子はぼんやりと、思っていた。
元々他人が口出しすることではないのだし、従姉妹の思うとおりにするのが一番なのかもしれない。

   
    
 
(…なんか、ちょっと逢わないうちに大人になっちゃったなぁ、少し、寂しいかもしれないな)

という切ない想いを痛感していると――。

「接客中にね、よく差し入れされるみたいなの。ご相伴に与ったことあるけど、物凄く複雑だったよ。だって、ライバルなんだもんね。この間なんてお客さんにナンパされてデートしちゃったんだって。中華街に行ったとか言ってたっけ」
「…中華街」

一瞬、ドキッ、と心臓が縮まった。
中華街。
あの夜みた、男の眇めた眼が、脳裏を過ぎった。
女を抱きながら奈那子を見た。どんな顔だか全然分からないのに、眼と手だけは忘れることが出来ないでいたから。
じわりと、奥から溢れたものが、奈那子の下着を濡らす。

(やだ、なんで?!)
「うん。で、その女と何やったのか事細かく聞いたら全部答えてくれた。てことは、あたしのこと全然意識してないって、ことだよね。なんか、ムカつくより悔しいわ」

長い指が、大きな手が女の臀部を、形が変わるくらい強く揉んで。女もソレを感受していて――。
はっきりと、眼に焼きついた光景が鮮明に思い出される。
無意識に、もじもじと太腿を擦り合わせた。

(どうしよう、すごく、したい…)
「ナコちゃん?どうしたの?」

ぎくりと、奈那子は身を揺らした。

「……ッ、そこまで腰がゆるい人で良い?」
「腰ゆるいって…確かにゆるいな…それでも好きなんだもん。でも、絶対あたしだけに決めて貰う。誰かと共有なんて許せないもの」

根拠のない自信。
美奈子はそう言いきり、にっこりと笑った。

        ☆

「う、うう~っ!」

誰もいない場所なんて、何処にもない。下肢が疼いて、どうしようもない。
我慢、出来ない…。
何処でもいい!
膣(なか)に指突っ込んで、思う存分、引っ掻き回したい!
熱(ほて)る身体をかき抱くように、覚束(おぼつ)ない足取りでビルのフロアを歩く。
すれ違う人たちの訝しげな視線など、かまってられなかった。
ヨロヨロと逃げ込むようにして入った、トイレ。
毎日綺麗に掃除してある個室で、まさかこんなマネをするとは、夢にも思わなかった。
乱れた息のまま、スカートをたくしあげ、べっとりと愛液で濡れた下着を膝までおろす。
便座に座ると、両足を広げた。指で陰毛を掻き分けるとうっすら湿っていた。

「う、うう、は、…んんっ!」
(…ああ、こんなに、液、垂らしてたんだ私のここ)

息を荒くしながら、ゆっくりと、恥丘をなぞっていく。茂みの奥の温んだワレメから透明な汁が、絶えず染み出ている。
前に屈んで、人差し指と中指を揃えて突っ込んだ。
慣らさなくても十分に潤んだ秘肉はすんなりと指を含んだ。多少乱暴な方が、感じる。ぬちぬちと淫猥な水音が、聴覚を刺激した。
空いていた手で、埋没していたクリトリスを摘む。奈那子は夢中で、指を動かした。

この指は、あの男の『指』――。
この手は、あの男の『手』――。

「んッ!ふぅぅ、あ、はあ、あぅぅ…っ」
(もう少し…、もうちょっとで、イけるっ)

「さっきの服、可愛かったねー。どうしようかなぁ」
「帰りにさ、もう一回寄ってこうよ。そのときあったら買えばいいじゃない」
「そうだねー」

会話と同時に、トイレの入り口の扉が開いた。

(人が!…駄目ッ!もう、止まんないっ!)

奈那子は、とっさにスカートの裾をきつく噛んで、便座に備え付けてあった洗浄スイッチを押した。

「ゥゥゥ……ッ!!」

ビクビクと、全身が痙攣したように、震えて――。
奈那子は、イった。

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