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家出少女 其レモ恋ト言ウ4

第4話:確カナフシダラ

「じゃ、いこっか。アタシ、オナカ空いたー」
「うん。ゴハン何処で食べる?上のレストラン街にでも行く?」
「そうだねー。クーポン使えるかなぁ」

遠のく客たちの会話。
パタンと、ドアが閉まる音がした。
嵐のような飢餓感と熱が過ぎ去って、細川奈那子(ほそかわななこ)はトイレの個室に、ぐったりと座り込んだままだった。
洗浄する水音が、徐々に収まっていく。

(…イっちゃった)

はぁはぁと息を乱したまま、ふいに自分の手を見る。と、それは、体液でベトベトに濡れそぼっていて奈那子を現実の世界へと引き戻した。
じわりと、涙が浮かんでくる。

(…っ私、私はッ)

従姉妹との話の途中で発情して、我慢できなくて、駅ビルのトイレで自慰行為――。
いつ客が入ってくるか分からない状況なのに、実際、誰かが入ってきても、イくまで止まらなかった…。
――何故こんなことになったのか。

「う、うぅぅぅぅ~っ」

情けなくて虚しくて、涙が止まらなかった。

          ☆

散々泣いて洟(はな)を啜りながら、奈那子は個室から出た。
備え付けの洗剤で、執拗に手を洗った。
鏡に映る、泣きはらした顔。
有給、取ってて良かった。
こんな顔で出勤できない。

(なんて、みっともないんだろう)

どうにか止めた涙が、また滲んだ。
まるで、淫乱だ。
自分の性癖は、普通だとずっと思っていた。
「手」フェチではあったものの、そんなの何処にでも、誰にでもある一般的なものなのだと。
でも、違うようだ。
些細な言葉で、中華街というキーワードで、安易に反応するそれ。
奈那子のなかに、知らない自分がいる。
それが、怖い。
不安でしかたがない。

(逢いたいなぁ…安彦さんに、傍にいてもらいたいなぁ)

そしたら、こんな気持ちはきっと、なくなる。
毎日電話しているが、デートはいつも土日だった。お互い働いているから、どうしてもそうなるのは仕方がない。
中華街でのデートから2日。もう2日。次に逢えるまで、あと3日。
指折り数えるなんて、莫迦みたいだけど。

(逢いたい、今すぐ逢いたいよぅ、安彦さぁん)

そして再確認したい。
自分の気持ちは、彼の元にあるのだと。
あの「手」よりずっと彼の手が素敵なんだと。
想像以上に、記憶を侵食している「手」。
それを奈那子は知ってしまった。
もし、何処かで、あの手の持ち主に遭ってしまったらどうなるか、考えるのが怖い。
そんな可能性なんて、ゼロに等しいけれど。
実際、引き摺られている自分がいる。
記憶なんて、時間が経てば経つほど美化されてしまうものだ。

(安彦さんに…電話、してみようかな)

奈那子は、トイレをあとにした。

まだ、街は明るい。
9月――。
少しずつ、日が短くなってきているけど夕暮れには程遠い時間。歩く足取りはどこか重たい。
こんな日に限って、飛田は捕まらない。

「今夜、接待ならしょうがないよねぇ…」
(いきなり電話なんかして、変に思われなきゃいいけど)

左手の指輪を見ながらひとりごちた。
見上げた先に、有名電気量販店の看板がみえる。

(…そういや、玄関の電球、切れてたっけ)

奈那子は、引き寄せられるように、足を向けた。
めったに1人では入らないタイプの店だった。
どのフロアも人で込み合っている。なのに、場所を聞こうと店員を探すが、なかなか手すき担当が見当たらない。
漸く場所を聞いたら1フロア上だったらしい。

(ま、いっか。急いでるってわけじゃないし)

そう思いながら、のろのろとフロアを歩いていたときだった。
店内放送とは違う、ピアノの音がした。
CDではない、生の音。奈那子の眼が、その根源を探す。
視線の行き着いた先。展示されている電子ピアノの前に男がいた。
背中を屈めて、立ったまま右足でペダルを踏みながら音を奏でている。
腕が、伸びる。
鍵盤を叩く長い指が、垣間見えた。
暗譜をしているのだろう、その指は躊躇うことなく、鍵盤の上を滑っていく。流れるように、生み出されるメロディーはフロアに響いていた。
よくCMで使われている曲ではないだろうか。

(…長い、指、大きな、手)

ぼんやり、思った。
長い指を、大きな手をみても、今はあの時ほど感じない。
では、何故?
どうしてあの夜、あんなに発情したのか…。
奈那子は、しばらくそこから動けないでいた。
――と曲が止む。
訝しげに男が、ゆっくり振り向いた。
長身で、アイドルとまでは言わないが、かなりの美形だった。
少し驚いたように瞠目して、無言でじっと奈那子をみつめている。
それだけだった。話しかけるわけでなく黙ったまま。奈那子にしてみれば、なんとなく居心地が悪かった。
だから、声をかけてみたのだ。他になんの他意はなかった。

   
    
 
「あの、邪魔してたらごめんなさい。誰が弾いているのかなって思って」
「…ふぅん?」
「あの…?」
「ははっ」

困惑する女を、男は哂(わら)った。
そうして奈那子を眺めながら歩いてくる。脇をすれ違いざま、

「俺のこと、覚えてないんだ?あんなにガン見してたのに?」
「…え」

今度は奈那子が、瞠目する番だった。
なのに、男は歩いていってしまう。振り向かないで、そのまま。

(何?なんのこと?ガン見って、知らない。私はこのひと、知らない!)
(でも、あのひとは私を知っていた…私を?)
「――あ!」

男の投げ出したような手に、眼が釘付けになった。フラッシュバックする記憶。
女を抱く、男。
女の身体を這い回る、手。
そうだ、知っている!
確かに覚えている!

――アノ手ダ!アレハ、アノトキノ!

(待って!)
(お願い、待って!)

もつれる足で、追いかけた。声が出ない。必死になると声すら出ないことを今、初めて知った。
伸ばした奈那子の手。ソレが掴んだのは飛田ではなく――。

「待って!」
「おっと」

むき出しの、腕を掴んだ。両手で、後から。

「思い出した?俺のこと」
「…思い出したわ」
「どうして俺を追いかけてきた?」
「それは…」

男の腕にしがみついたまま、奈那子は言葉を失った。追いかけて、捕まえて、自分は何を言うつもりだったのだろう。何も考えられなくて、ただ、無我夢中だっただけ。
喘ぐように、動く奈那子の唇を見下ろしながら男は言った。
まるでせせら笑うように、眼を細めて。

「あのとき、アンタ、モノ欲しそうな表情(かお)して俺らを見てよな。ヤって欲しいってそんなカオしてた。今とおんなじ」
「違う、してない…してないわ」
「本当にそう?」

するりと、男のもう片方の手が奈那子の腰に添えられた。ビクンと背中が揺れる。
まるで奈那子の身体を抱くように、歩き出す男につられ、抵抗することも思い浮かばなかった。

「どうせ、暇なんだろ?」
「…え」
「俺と、シよう」

艶めいたハスキーヴォイスが、耳元で囁く。
鷲掴みにされた、尻たぶ。ぐにぐにと形が変わるくらい、強く。

「…あッ!」

思わず、声が出た。
男が喉で哂った。
ドキドキして、くらくらする。息が荒くなる。触れられてもいない場所から、粘ついたモノが流れ出るのが分かる。

――もう、奈那子は何も考えられなかった。

         ☆

重たい扉の向こうは、外階段。
奈那子の全く働かない脳味噌が確認できたのは、非常口という緑色の明かりだけ。
キスのない、抱擁。
着衣の乱れは、一切ない。
長い綺麗な指が、たくし上げたスカートの下の湿った下着を分け入って、抜き差しを繰り返す。
ぬちぬちと淫靡な水音が辺りに響く。
3本の指を、簡単に咥えこむくらい弛んだ性器から、とろりとした液が止めどなく溢れていた。
紅く捲れた肉が、むっとした独特の臭いを放っている。
喘いで、ひらきっぱなしの口から、絶え間なく声が洩れた。

(熱い…アソコが、ぬるぬるして、奥、擦れて、キモチがいいっ!)
「ッ…ァうッ…あ、ん!」
「声、あんま出すな…エロいことしてんの、バレても知らねぇよ?…」
「…は、はァ、…あ、あ、あ、…あ、や、ァァ…あんっ!」
「ふふ、上と下の口から涎たらして、そんなにイイ?」

非常階段で、立ったまま熟れた秘肉に、男根を突きたてられた。
奈那子の焦がれていた手が、絶えず尻の肉を揉みしだく、その快感。

(…ずっと、こんな風にしてもらいたかったっ)
「もっと、シて。は、ぁ…んっもっと強く揉んでっ!」

揺さぶられ続けて、立っていられなかった。
名も知らない男の胸にしがみついて、顔を埋めて、奈那子は啼いた。

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