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家出少女 シャンパンと一本の薔薇 3

第3話:真実

翌日の夕方、美月は例の喫茶店にいた。京介がいつもの様に注文を聞きに来て、カードを置いた。

「はい、先輩。借りた一般常識の本に挟まってたよ。」
「ありがとう。ごめんね。」

美月は電源を落とした携帯に差し込み、立ち上げて動作確認をした。

「あ、大丈夫。ちゃんと認識出来てる。」
「本当に?」
「え…?」

顔を上げると、空の盆を抱えて遠慮がちに言う京介が目に入った。

「その…昨日電話してごめん。」
「あ、ああ…こっちこそ、彼が勝手に取っちゃったりしてごめん。」

美月は昨夜の事を思い出し、視線を落とした。

「でも、電話してくれたお蔭で彼の本心が判っちゃった。」
「本心?」
「うん…彼もちょっとは私の事、好きだったみたいで…」

その言葉を聞いて、京介の顔色が変わった。

「え、じゃあ、別れるのは?」
「それは…ちゃんと別れて来たよ、もう…」
「そ、そう…なんだ…」

京介はほうっと肩を落とした。そして申し訳なさそうに言った。

「あの…俺、明日から数科目テストとレポート提出があってさ、しばらくバイト休むんだ。」
「そうなの。」
「だ、だから…その、先輩に何もしてあげられないけど、…早く元気になりなよ。」
「ああ…うん…」

その時、厨房から声がした。

「おおい、坂本!洗い場入ってくれ。」
「はい!」

京介は声のした方に向かって大きく返事をすると、美月に向き直り、こう言った。

「じゃ、またメールするから。…ゆっくりしてってね。」
「うん、ありがと。」

厨房に入る京介に、笑って手を振ってみせてから、美月は独り言を言った。

「いっそこの辺りに引越ししようかな…」

その夜、美月は自分の部屋で京介から返してもらったカードのデータを眺めていた。そこには1ヶ月程前の連休に、実家の方面で開催された体操部のOBOG会の写真が入っていた。プリントアウトしようと思い、取り出しておいたのに、いつの間にか京介に貸した本に挟まっていたというわけだ。

OBOG会は、美月の1つ上の先輩達が呼んでくれたもので、当時1年生だった京介も他の部員と共に呼ばれていた。皆で総合遊戯施設に集まり、ボーリングやカラオケをした後、飲み会となったものだった。美月のクラブメイトだった数人の同級生も混じり、総勢14人程の団体となっていた。楽しく笑い合う仲間達の姿が写っている。美月はふと、ある事に気付いた。カラオケでも飲み会でも、自分の隣に京介が写っているのだ。

「これも…?」

持って行っていたデジタルカメラの、ボーリング場の写真も確認してみたが、やはり他の子らとはしゃぎながらも、必ず京介は美月の隣に陣取っていた。

『あいつ…お前のことかなり好きだぞ?』

章吾の言葉が頭の中に甦る…。
そういえば、高3の時にこんな事があった。
その日は、3年生が出られる最後の地区大会の日が迫っていたので猛練習をしていた。美月は床運動の課題曲のメニューがこなせず、焦って一人で残っていた。そこへ、練習を終えた京介が近寄って来たのだ。周りを見ると、いつのまにか2人だけになっていた。

「男子はもう上がり?」
「うん…」
「そう。お疲れ。私もう少しターンと3秒バランスのとこやってから終わるね。」

そう言って、練習を続けようとした時であった。京介が小首を傾げ、言ったのだ。

「先輩、俺と付き合ってよ。」
「え?」

美月は顔を上げた。京介はクラブ日誌のファイルを持ったまま、少し赤くなって彼女を見つめている。

「ああ…クラブ日誌の提出ね。」
「は?」
「今なら顧問の畑中先生は職員室だと思うよ。ごめんね。一人で行って来て。」
「…ちがっ…そうじゃなくって…ああもう、うん、行って来る!」

京介はごにょごにょと口の中で言うと、駆けて行ってしまった。変だなと美月は思ったのだが、気にせず練習を続けたのだった。

「…あれは…告白だったのかな…」

日誌を持って行くのに付き合えというのなら『俺と』ではなく、『俺に』の筈だ…。しかしそれ以降、彼は何も言って来ないまま、美月はクラブを引退したのだった。

「本当に私の事…好きなの?」

美月は小さな画面の中の、京介の笑顔を見ながら呟いた。

   
    
 
10日程経った頃の会社の昼休みに、先輩の西田さつきが声を掛けてきた。

「我らが助っ人、柏木君からメールが来たよ。」

章吾と西田は同期入社だ。彼の名前を聞くと、まだ胸が少し痛む美月だったが、隣の席の同僚が

「わあ、柏木さんから?見ます見ます。」

とはしゃいで西田のパソコンの所まで行ったので、彼女も渋々付いて行ってモニタを覗き込んだ。メールは同期に宛てた物らしく、『柏木章吾、本社着任完了!』などというタイトルで始まっていた。その添付データの写真には、章吾の部署のメンバーであろう男女5、6人の姿が写っている。美月は章吾の隣にいる美しい女性に目を留めた。

「この人は?」
「ああ、由美よ。望月由美。私達の同期で、今度柏木君と結婚する人よ。」

美月は思わず息を呑んだ。由美は車椅子に座って微笑んでいた。西田がおもむろに話し出す。

「…あなた達入社2年目は知らないだろうけど、3年前の本社の慰安旅行で、会社がレンタルしたマイクロバスが横転してね。…乗っていた柏木君や他の人は幸い軽症で済んだんだけど、由美は座席と車体に右足を挟まれて…失くしちゃったんだ…」

美月は章吾に由美がどんな人なのか聞いた事がなかった。彼女の何かを知っても、切なくなるだけだと思っていたからだ。西田が続ける。

「柏木君と由美は入社直後から付き合い出してね。事故後も2人でリハビリに通ったり、励まし合ったりして…本当に柏木君も由美に献身的でさ。今回の結婚も…不自由な身体での出産や育児は大変だろうけど、2人でやり遂げるって決心したんだって。」

美月の耳には、西田の声は届かなかった。ある夜の事を思い出していたからだ。

いつものように、2人は熱い夜を過ごしていた。美月は章吾に好きな様に弄ばれ、うっすらと全身に汗をかいて肩で息をしていた。一旦彼自身が引き抜かれた膣も、まだ余韻を含んでしっとりと濡れている。その身体を眺めて、章吾がポツリと言ったのだ。

「…綺麗な身体してんな…」
「…え?」

美月は乱れた髪をかき上げながら聞き返した。章吾が彼女を誉めたのは、今までに一度もなかったからだ。彼は彼女の右足にそっと触れ、なで上げた。

「…でも、由美さんの方が綺麗なんでしょ?」

照れ隠しに美月は揶揄を込めて言った。それを聞いた章吾の手がピタリと止まり、美月をうつぶせに転がした。更に腰を掴んで四つんばいにし、両腕を後ろから掴み上げ、身体を反らさせた。ピンと張りのある乳房があらわになった。

「あ…ちょっ…と」
「由美は綺麗だよ。最高の女だ。」

そう吐き捨てるように言うと章吾は、美月の膣に乱暴に彼自身を入れた。

「ひ…」

美月の身体に痛みが走った。章吾は彼女の異変には気付かず、ぐっと押し込んだ。

「ま、待って…あ…!」

美月が止めようとしたが、彼は何度も強く動いた。

「…い、痛い…いや、止めてえぇ!」

彼女の悲鳴に、章吾はハッとして離れた。美月は崩れ落ち、子宮の辺りを押さえてうずくまった。額に脂汗が滲んでいる。

「ごめん…美月。大丈夫か?」
「は…い…。私、バックでは上体が高いと凄く痛いんです…。」

美月は痛みをこらえて答えた。

「あ、ああ…うっかりしてた。…そうだったな。」

章吾はいつになく狼狽していた。

「急にどうしちゃったんですか?…私、そんなに悪い事でも言っちゃいました…?」

章吾の顔が悲しげに曇った。

「いや、お前のせいじゃない。…今日はもうよそう。悪かったな。」

彼はそう答えると、浴室へ向かった。その時の様子を、美月は不思議な思いで眺めていたが、今なら判る気がした。きっとあの日、彼女の知らない所で、彼の今後の人生の覚悟を決定付ける何かがあったのだ。…おそらくは由美の妊娠の知らせか…。

「…幸せに、なれるといいですね。この2人…。」

モニタを眺めながら、美月は誰に言うともなく、ポツリと言った。

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